切妻デザインを採用した重厚感ある管理棟(中央)、左サイドは多床棟、右サイドは個室棟
富岡町立 養護老人ホーム 東風荘
東日本大震災の原発事故によって全域が避難地区になった福島県富岡町。その町立養護老人ホームが避難先である郡山市に完成し、入居者の受入れを2013年1月より開始しています。避難区域の福祉施設が仮設で事業を再開する初めてのケースで、建設に際しては大和リースの福祉施設建設のノウハウを活用しました。
被災された高齢者が、快適な暮らしを取り戻すために。
福島県富岡町立養護老人ホーム「東風荘」(運営委託:社会福祉法人伸生双葉会)では入居者73名が避難を余儀なくされました。避難所での生活は高齢者にとっては過酷で、その後県内外の高齢者施設に分散・移動したものの、避難の長期化による健康状態の悪化や受入れ施設職員の労働負担増など数々の問題が発生していました。このままでは大変なことになると考えた「東風荘」施設長の志賀昭彦氏は、状況打開のために仮設老人ホームの設置を町や県に陳情。しかし、その時点では仮設での養護老人ホームの建築が認められていなかったことから、建物を借りて改築する方向で急いで物件を探すことになりました。「そんな折に訪ねて来られたのが、大和リース福島支店の大平さん(当時)です。以前名刺をいただいたこともあり、このタイミングで来ていただいたのも何かの縁だろうと、物件探しに協力いただくことにしました」と志賀施設長は話されます。しかし、条件を満たす物件がなかなか見つからず、〝土地を借りて新たに建物を建てる〟しかないという結論に。ここにきてようやく厚生労働省から承認も下り、条件が整ったことで仮設養護老人ホーム建設への取組みが始動。当社ご提案のプランとともに、志賀施設長が再度富岡町に働きかけました。
行政とのやりとりや施設の設計・建設に活かされたノウハウ。
施設からの要請を受けて、富岡町は仮設養護老人ホーム建設計画を決定。プロポーザル方式により当社が選定されました。建設地は避難先の郡山市との協議により、郡山市の市有地を無償で借り受けることができました。志賀施設長は「町に納得いただくまでが、また大変でした。避難先であり、予算面の制約もあります。当方は行政の手続などもあまり把握していませんでしたので、大和リースの大平さんには、役場との折衝・調整から各種申請の手続などを含め奔走いただきました」と当時を振り返られます。建設決定後は、地元設計事務所と共に設計プランを作成。また福祉施設建設の経験がなかった富岡町役場をリードする形で建設を進めました。当時のご担当であった富岡町健康福祉課の飯塚裕之氏は「私たちは福祉施設建築については素人でしたので、建物の基本設計は全ておまかせしました。一旦設計提案をいただいて、その上で要望をお伝えして対応していただきました。例えば、こちらは格段に寒いので寒さ対策などは特にお願いしました。他部署との調整なども必要で何度も足を運んでもらいましたが、申し分のない立派な施設が完成したと思います」と語られます。
着工が2012年9月で、12月14日に引渡しを行うという短工期で完成。「スピードは当社の信条とするところです。避難先で不自由な思いをされているご高齢の方に一日も早く心安らぐ場所を提供したいと、私どもも、職人も、心を一つにして取組みました」と工事課渡部は語ります。施設は管理棟、共用棟、多床棟、個室棟から成り、延床面積は約1,840㎡。仮設とはいえ、入居者が安心して暮らせる〝住まい〟として快適な居住性を最優先。さらに生活の安全を守る防災機能も備えるなど、避難の長期化を考慮した仕様となっています。新しいコミュニティにふさわしい落ち着きと機能性を備えた建物内外のデザインに加え、LED照明やリサイクル建材であるリニューウッド、太陽光発電付き蓄電池といった環境に配慮した設備も導入されています。
また、志賀施設長は「多くの方の尽力を得てやっとここに辿り着きました。最初は本当に手探り状態で、ノウハウを持つ大和リースさんからはさまざまな提案をいただきました。とてもありがたいご縁だったと思います。経営面、マンパワーの問題など課題は残りますが、入居者が心豊かに暮らせるよう使命感をもって施設運営に臨みたい」と話されています。