診療報酬の改定は、医療・介護事業従事者に対して単に金銭的な変化だけをもたらすものではありません。診療報酬の改定は国が目指す医療や介護のこれからのあり方を示すものであり、医療・介護事業従事者はこれを道しるべとして今後の事業内容の舵取りを行っていかなくてはなりません。ここでは平成30年度に行われる診療報酬改定について、その概要や詳しいポイントをご紹介します。
■医療報酬改定の概要
■「地域包括ケアシステムの構築」と「質の高い医療の実現・充実」についての具体的方向性
■「医療従事者の働き方改革」と「制度の安定性・持続可能性の向上」についての具体的方向性
医療報酬改定の概要
2018年度の診療報酬の改定は、平均寿命が100歳に達する「人生100年時代」に対応できる社会づくり、日本中どこに居住していても必要な医療・介護サービスが受けられる地域包括ケアシステムの実現、安定性や持続可能性の確保などを前提として検討が行われました。これにより定められた具体的なポイントは次の通りです。
- 1.地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進
- 2.新しいニーズにも対応でき、安心・安全で納得できる質の高い医療の実現・充実
- 3.医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進
- 4.効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上
大まかな方向性として「地域包括ケアシステムの構築」を目標としながら、今後高齢化と共に現れてくるであろうさまざまな容体・状態の患者や利用者に幅広く対応でき、更に医療・介護従事者自身の負担も軽い、安定的かつ効率的な新しい医療・介護の仕組みづくりを目指しています。この実現のため、各医療機関に対しても今後はより一層の役割強化が求められてゆくでしょう。以下の項では、これら4つのポイントをより詳細に見ていきます。
「地域包括ケアシステムの構築」と「質の高い医療の実現・充実」についての具体的方向性
地域においてきめ細やかなケアを実現する「地域包括ケアシステム」の構築においては、地域の医療機関の連携だけでなく、歯科、薬剤師、介護事業者、障害保健福祉、母子保健、児童福祉等の各関係機関との密な連携が必要不可欠となります。かかりつけ医や歯科・薬剤師の評価、更に患者やその家族の希望に応じたさまざまな形での看取りも今後推進される見込みです。特に在宅医療の推進は本改定において特徴的で、地域包括診療加算等における医師の配置基準が緩和されるなどの改定が行われました。
また、本改定では「オンライン診療料」が新設され、対面診療が原則の上、有効性や安全性等への配慮を含む一定の要件を満たせば算定が可能になりました。しかし、現段階では限定的な要件が設定されており、算定要件を満たすことは難しいのが現状です。今後の診療報酬改定においても、適正化が目指されていくことになるでしょう。
「安心・安全で納得できる質の高い医療の実現・充実」へ向けての取り組みとしては、緩和ケアを含めた質の高いがん医療、認知症治療、難病治療、精神医療での地域移行・地域生活支援などさまざまな医療介護ケアに対して適切な評価を行うことが示されました。また、手薄となっている小児医療、周産期医療、救急医療を充実させることも急務です。更に、先進的医療技術の活用やICTの活用等、新たな技術の導入や活用も推奨されています。これらの取り組みについては、アウトカム(国民に実際にどのような利益がもたらされたか)を重視して評価が行われることとされています。つまり、質の高いリハビリテーションの実施など、実際に患者や利用者にとって満足度の高いサービスが成果として重視されることになります。
「医療従事者の働き方改革」と「制度の安定性・持続可能性の向上」についての具体的方向性
近年、働き方改革は全ての業種において関心事となっており、医療・介護業種もその例外ではありません。高齢化によって医療を必要とする人の数は今後も増加の一途をたどる見込みですが、それに対応する医療・介護従事者の数は限られています。医療・介護現場の働き方そのものを変化させなくては、今後やって来る「人生100年時代」には対応していけないことは明らかです。この問題に対し、「医療従事者の働き方改革」で意図された具体的なプランは、多職種が協力し合うチーム医療の推進などによる勤務環境の改善、業務を合理化し医療の質を向上させるための遠隔診療・医療連携などを含めたICT有効活用の推進、大病院負担見直しを含めた大病院・中小病院・診療所の機能分化などです。高まるニーズに、より少ないリソースで対応していくため、高いレベルでの業務効率化・合理化が求められています。
「制度の安定性・持続可能性の向上」についてもさまざまな具体的な取り組みが示されています。薬価制度の改革推進、医薬品の適正使用の推進、後発医薬品の使用推進などは医療コストの見直しを意図した取り組みです。医薬品・医療機器・検査等に新たな基準を設け、正しい評価を行うことも具体的取り組みの一例です。また、社会の人口構造の変化に伴って、疾病構造が変化してゆくこともポイントとなります。新たな疾病構造に対応し、入院医療のニーズもまた形を変えてゆくことでしょう。多様化する入院医療のニーズに対応すべく、地域ごとに必要な入院医療が即時提供できるよう、医療機能の分化・強化・連携が求められています。
このように平成30年度の診療報酬改定では、今後の医療のあり方が具体的に示されています。人口構造の変化に伴って現代の医療現場の課題は複雑化していますが、変革の波に乗り遅れないよう、ひとつひとつ着実に取り組みを行っていくことが大切でしょう。